これは、ミステリー小説ですが、社会性のある内容的にも重いストーリーで、クレジット社会である現代において、多重債務・自己破産などが他人事ではなく、誰にでも起こりうる事として受け止めると言う意味でも、一読に値すると思います。
582ページという長編ですが、ストーリー展開がスムーズで興味を損なわず、どんどん引き込まれて読み進んでいけます。
休職中の刑事が、親戚の青年に頼まれて、失踪した婚約者を捜すことになります。
その婚約者が実は、過去に自己破産をしたという経歴があり、そして、それを追ううちに更に予想外の事実が・・・という内容なのです。
その刑事の生活も細かく描かれていて、息子の智とのやり取りや、亡くなった奥さんのこと、また、近所の伊坂さん夫婦などなどの付き合いも人間味が溢れていて興味深い。また、そのやり取りの中で、事件に対するヒントを得たり・・・。
刑事が調べていく中で、弁護士と会話する場面があり、その中で弁護士は、多重債務や自己破産が誰にでも起こりうるということを語ります。
その弁護士のセリフの一部を引用します。
「金利というのはおんぶお化けみたいなものでね。先へ行くほど重くなる。それと、キャッシングという、この言葉の魔術です。サラ金に行くのはかっこ悪い。だが、クレジットカードでキャッシングするのはスマートな感じがする。それに、サラ金に比べて金利も安いような気がする。ところが、これがとんでもない錯覚でしてね。(略)クレジットカードのキャッシングなら安全だと思い込んでしまう。これが間違いの第一歩です。」
「多重債務者たちを、ひとまとめにして、『人間的に欠陥があるからそうなるのだ』と断罪するのは易しいことです。だがそれは、自動車事故にあったドライバーを前後の事情も何も一切斟酌せずに『おまえたちの腕が悪いからそうなるのだ。そういう人間は免許なんか取らないほうが良かったんだ』と切って捨てるのと同じことだ。」
なかなか重いセリフです。
また、始めは少しだった借金がどういうふうにして増えて、多重債務になっていくのかっていう道筋も書いてあり、現実的です。
佐高信さんは、解説で、この小説のことを経済小説と言い表していらっしゃいますが、まさにそうで、色々と勉強にもなります。また、「卒業前の女子高生に化粧の講習をするところがあるが、そんなものをやるくらいなら、カード教育をするべきではないか。」とおっしゃっています。今も化粧の講習会があるのかどうかは分かりませんが、カード教育は必要だと思います。
また、宮部さんの「あとがき」を読んで、東野圭吾さんが大阪弁の会話についてのアドバイスをしたということを知りました。面白い!